告訴・告発の基礎知識
告訴・告発とは
まず、日常、一般的に、広い意味においては、組織内で起きた不正や不祥事を内部告発や直訴したり、監督官庁や事業者団体などの関係機関への通報したり、もしくはマスコミなどへの情報提供や地方公共団体への嘆願や請願、などの場合において「告訴」や「告発」という言葉が使われることがありますが、ここでは、刑事事件としての「告訴」「告発」に限定して説明します。
告訴・告発とは、捜査の端緒(きっかけ)の一種です。
捜査の端緒には、告訴・告発のほか、現行犯や通報、投書、被害届、その他、様々な種類があり、本来、捜査機関は、犯罪の疑いがあると思われる場合には、自由に捜査を開始することが出来ます。
もっとも、必ずしも、すべてにおいて捜査をする義務を負うものではありません。
ただし、告訴と告発については、その他の「捜査の端緒」と異なり、唯一、受理した場合に捜査をして事件記録を作成し、検察庁に送付する義務を負うという点が、大きな特徴となっております。
※告訴権・告発権は、自然人、法人、地方公共団体(都道府県や市町村)の他、法人格のない社団・財団などにも認められます。
告訴とは
告訴とは、告訴権者(犯罪の被害者やその法定代理人等)が警察官や労働基準監督官などの司法警察員(捜査機関)または検察官に対し、犯罪事実を申告し、犯罪者の処罰を求める意思表示のことをいいます。
告訴権者
告訴を行うことが出来るのは、被害者です。
刑事訴訟法230条 |
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犯罪により害を被った者は、告訴をすることができる。 |
告訴は犯人の処罰を求める意思表示であることから、未成年であっても、告訴の意味やそれが与える影響を理解する能力を有しているのであれば告訴することが出来ます。 13歳11か月の被害者の告訴も認められています(最高裁 昭和32年9月26日決定 )。
被害者が未成年者の場合には親権者が、被害者が成年被後見人の場合は成年後見人が、被害者の意思とは別に、独立して告訴することが出来ます。
被害者が死亡したときは、被害者の配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹が告訴権者となります。
刑事訴訟法231条 |
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被害者の法定代理人は、独立して告訴をすることができる。 |
2 被害者が死亡したときは、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹は、告訴をすることができる。但し、被害者の明示した意思に反することはできない。 |
刑事訴訟法232条 |
被害者の法定代理人が被疑者であるとき、被疑者の配偶者であるとき、又は被疑者の四親等内の血族若しくは三親等内の姻族であるときは、被害者の親族は、独立して告訴をすることができる。 |
その他、死者の名誉を毀損した罪については、死者の親族又は子孫が告訴権者となります(刑事訴訟法233条1項)。
告訴は、委任された代理人によっても行うことが出来ます(刑事訴訟法240条)。
代理人による告訴については、委任状の作成添付が必要となります。
告発とは
告発とは、犯罪の被害者や犯人でない第三者が同様に犯罪事実を申告し、犯罪者の処罰を求める意思表示のことをいいます。
告発権者
告発に関しては、告訴と違い、被害者以外の誰でも行うことが出来ます。
刑事訴訟法239条1項 |
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「誰でも、犯罪があると思うときは、告発をすることができる」 |
但し、親告罪については、告訴権者による「告訴」のみしか行うことが出来ませんので「告発」をすることは出来ません。
親告罪とは、事実が公になることで、被害者のプライバシーが侵害されるなどの不利益が生じるおそれがある犯罪被害の場合や、介入に抑制的であるべきとされる親族間の問題など、告訴がなければ公訴を提起することができないと定められた犯罪のことをいいます。 親告罪のうち、一定の犯罪については、告訴期間が「犯人を知ってから6ヶ月」とされています(刑事訴訟法235条)。
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公務員の告発義務
公務員は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならないとされています(刑訴法239条2項)。
行政機関への告発
通常の刑法犯罪や特別法犯(覚せい剤取締法違反、売春防止法違反など)に関する告発の他、監督官庁への申告や通報が有用な場合も多くあります。
行政法犯(道路交通法違反・建設基準法・風俗営業法、医師法、他) ⇒「行政処分を求める申告(行政手続法第36条の3」 ⇒自己の勤務先などの不正や違法に関しては、公益通報(公益通報者保護法) |
被害届とは
告訴と似たものとして捜査機関(警察署など)へ提出する「被害届」というものがあります。
被害届とは、被害を受けた犯罪事実の申告を行う点では告訴と似ていますが、犯罪者の処罰を求める意思表示までは含まれていない点が大きく異なります。
また、告訴の場合と異なり、受理をしても、法的には、捜査機関は捜査をする義務を負いません。
告訴と起訴の違い
告訴とは、犯罪の被害者等が犯人の処罰を求めて犯罪事実の申告を行うことです。
一方、起訴とは、検察官が国家機関である裁判所に対し、国家権力の発動たる刑罰を求めて訴えを起こすことであり、告訴とは、その前段階である捜査や起訴を促す意思表示のことです。
元来、捜査機関は犯罪の疑いがある事実を発見した場合(例えば傷害や殺人など)、告訴などを受けなくても捜査を開始することが出来ます。
しかし、犯罪の事実が警察当局へ知られていない状態である場合、または親告罪(名誉毀損罪や過失傷害罪、強姦罪など)の場合、告訴を受けてから捜査を開始するということになるわけです。
※親告罪のうち、性犯罪以外に関しては、告訴は犯人を知ったときから原則として6ヶ月以内に行わなければなりません。
告訴された者のことを、起訴をされる前は「被疑者」といい、起訴をされた後は「被告人」といいます。
告訴状・告発状の保存期間・開示請求の可否
最高検察庁の公表している標準文書保存期間基準によると、東京地方検察庁事務局・東京地方検察庁事務局総務課・東京区検察庁総務課における、事件の端緒に関する、投書,告訴状・告発状などの文書は、保存期間が3年となっております。
なお、告訴状・告発状は「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」による開示請求の対象外です。
告訴状・告発状や捜査資料のひとつであり、捜査の進捗状況などは一切公表することの出来ない捜査秘密であるため、捜査継続中は開示されませんが、不起訴処分になった場合でも、開示が認められるのは、極めて例外的な場合に限られ、かつ、開示範囲も非常に限定的となります。
起訴後の刑事記録については、裁判関係者以外への開示が禁止されておりますが、刑事裁判が確定・終了した後の記録については、利害関係人であれば開示を請求することが出来ます。