刑事と民事の違い

民事と刑事では全く目的や内容が異なりますし対象範囲が異なる場合も多くあります。
どのようなトラブルや被害であっても、仇討ちや報復行為、自力救済、は一切認めておりません。
また、国家権力による恣意的な裁定や排除、処罰、などは、あってはなりません。
法律の定めに従って処理するためのルールとして、民法や刑法などの法律が別々に設けられています。
民事
私人間のトラブル解決を目的として、権利の保護、被害の回復、等を図るのが「民事」です。
「私的自治の原則」により、公序良俗等に反しない限り、当事者間で自由に合意や和解をすることが出来ます。
「過失責任の原則」により、故意または過失によって他人に損害を生じさせた場合のみ責任を負うことになります。
- 契約上の債務不履行
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お金を貸したのに返してもらえない
代金を支払ったのに商品が届かない、等 - 不法行為による損害賠償
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怪我させられて生じた治療費や慰謝料
物を壊された場合の修理費や弁償費用、等
刑事
国家が、国の治安や秩序の維持に反した者に処罰(刑罰)を課すのが「刑事」です。
「罪刑法定主義」「類推解釈の禁止」「慣習刑法の禁止」により、明文による罰則規定に該当し、公開法廷での裁判によらない限り処罰されません。
「推定無罪の原則」があり、100%疑いを挟む余地が無いと思える程度に立証がされないと、有罪として認定することが出来ません。
- 傷害罪、過失傷害罪、等
- 他人に怪我をさせた
- 器物損壊罪
- 他人の物を故意に壊した
- 窃盗罪
- 他人の物を盗んだ
- 詐欺罪、横領罪、等
- お金や財産をだまし取った
民事と刑事の違い
以下に主要な民事事件と刑事事件の違いをまとめてみました。
刑事事件と民事事件の違い | ||
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刑事事件 | 民事事件 | |
手続 | 被疑者の犯罪事実や量刑を判断する手続き | 私人間における利害の調整を図る手続き |
内容 | 国家による国民の処罰 | 私人(一般の個人や企業)間の被害回復や金銭賠償 |
当事者 | 国を代表する検察官VS私人 | 私人 VS 私人 |
訴訟提起 | 刑事事件の訴訟提起(起訴)は検察官しか出来ない。訴える人が検察官訴えられる人が「被告人」 | 民事事件は、国民誰でも訴訟提起することが出来る。訴える人が「原告」訴えられる人が「被告」 |
立証責任 | 国(検察官)のみが負う | 立証によって利益を得る者 |
証明程度 | 「合理的な疑いを挟む余地が無い程度」 | 「通常人が疑いを挟まない程度」 |
「疑わしきは罰せず」の原則 | 「どちらが真実らしいか」の比較考量 | |
被告人の自白のみでは有罪には出来ない。 | 自白した内容は事実と認定され、証明を必要としない。 | |
和解 | 和解による解決はない。※例外:司法取引 | 裁判しなくても裁判途中であっても和解による解決が可能。 |
裁判 | 検察官が有罪確実と思う事案しか起訴しない。 | 誰でも自由に訴訟提起する事が出来る。 |
起訴された場合は99%が有罪になっている。 | 法的な根拠や事実を証明できないと請求棄却となる。 | |
犯罪が証明され判決が出ると刑罰が与えられる。 | 証明出来ると判決や命令が下され、強制執行が可能になる。 |
行政上法律に違反した場合、例えば、無免許や飲酒運転などの道路交通法違反、建築基準法違反、風俗営業法違反、銃刀不法所持、等については、刑事告発することは可能ですし、刑事処罰を受ける可能性がありますが、被害者・加害者の関係にはありませんので、損害賠償請求などの民事事件にはなりません。
また、脅迫や暴行、詐欺未遂、などに該当する犯罪の被害を受けた場合、刑事処罰の対象にはなりますが、具体的な損害が生じていなければ、やはり民事上の損害賠償請求などは認められません。
民事事件は私人間の紛争であり、当事者間での示談による解決を図るのが原則ですが、それが出来ない場合、最終的には裁判所が、対立する私人間の権利保護を比較衡量して、どちらが保護されるべきかを判断し、損害賠償などの金銭での解決を図る手続きです。
刑事事件は国家による処罰であり、国家が国民に処罰を与える手続きであるため、慎重かつ厳格に判断されなければなりません。
仮に刑法などの刑罰法規が定める「犯罪」としての構成要件に該当していたとしても、その違法性が軽微であるなど、処罰をするべき程度の質又は量を有していない場合は、処罰に値しないという理論(可罰的違法性論)により、起訴や処罰を受けないことがあります。
刑事裁判で有罪認定された事実は、非常に厳格に判断をされていますので、そのまま民事裁判でも事実として認定されることが多いです。 逆に、民事裁判で犯罪行為があったと事実認定されても、刑事事件としての事実認定には不十分とされて起訴や有罪判決を受けない場合があります。
民事事件は証拠不十分で請求が却下されたり、事情が考慮されて賠償義務を受けないこともありますし、当事者間の合意による和解での解決もあります。
刑事事件は証拠不十分で無罪となったり、情状酌量の余地を考慮して執行猶予されることがありますが、原則として和解という解決はありません。